2022/05/10 17:18

夕方、いわれた場所にいわれた服装でむかう。
服装と言っても特に決まりは無かった。
綺麗目な服装、靴下は白で。
「こんばんは!初めまして!」

「よくお越しくださいました。どうぞー」

茶室に入ると生徒さん達が笑顔で迎えてくれた。

うっすらかおる香のかおり。
静かに音をたてる釜。
床間には掛け軸。
食べるのがもったいないくらいの主菓子。
すべてのものたちが僕の五感を揺さぶった。

今まさに1人の生徒さんがお茶を点ててくれている。
初めてみるお点前だ。
すべてが丁寧で、緩急は美しく見惚れてしまう。
「たった一服の為にここまでしてくれるのか」
なぜか今生の別を思わせる哀しみにも似たものを感じた。

「なんだろ、この感じ」

漆黒の器の中に濃い緑。
泡の無いところはハート型になっていてチャーミングだった。

「お点前頂戴致します」
教えてもらったとうり客の作法をやってみる。
「かっこいい、自分」

お茶を飲み干すと心からホッとできた。
疲れきった心と身体に隅々まで沁み渡る。

茶室は全てをフラットにしてくれた。
想像を遥かに上回り、現実社会を超越した宇宙がそこにあった。

床間の掛け軸。
「清流無間断」
なんて読むんだろ、、。

先生が言う。
「セイリュウカンダンナシよ。
澄んだ川の水は太くなったり細くなったり、だけど途断える事なく流れている」


「茶道をはじめてみよう」
この日はっきりとそう決めたのを覚えている。